福田 正義

 

新型コロナウイルスの影響で、
多くの企業がオフライン(実店舗)での
販売に苦戦を強いられてきました。

そこで商品販売をオンライン化したものの、
「なかなか消費者から購入してもらえない」
という声をたくさんお聞きします。

このような状況下ゆえに、
自社のマーケティングを見直す経営者も
多いのではないでしょうか。

そこで今回、
長年ヤフー株式会社の
コンサルティング部門のマネージャーとして、
Webマーケティング事業に携わってこられた
福田正義(ふくだまさよし)氏より
マーケティング戦略の基本をご紹介いただきました。



1. 質ではなくブランド

福田正義氏は、
商品の質(機能)”だけ”が優れていても
消費者は購入してくれないと説明しています。

なぜなら商品の質は
顧客にとって差別化ポイントにならないからです。
売れる商品は質に加えて、
消費者が感情移入する
”ブランド”を有しています。

例えば、
「十六茶と爽健美茶、
どちらが良い商品か?」と聞かれた時、
明確に違いを説明することは
難しいのではないでしょうか。
相違点として、
原料やペットボトルの形など質(機能)の
違いが挙げられます。

しかし、これらが差別化ポイントとして
機能していないため、
消費者は明確な違いを認識できないのです。

一方、2004年にアメリカの
ベイラー大学が発表した、
コカ・コーラとペプシコーラに対する
消費者の好みに関する論文では
興味深い結果が得られたのです。

実験では、
被験者に「ブランドを隠した状態」
「ブランドを見せた状態」でそれぞれを飲み比べてもらい、
どちらが好みかを問いました。

実験の結果、
「ブランドを隠した状態」では両者が同様に好まれ、
差はなかったが、
「ブランドを見せた状態」では
コカ・コーラがより好まれました。

このことから、質(機能)ではない
”何か”が作用していたのです。
その何かとは、”ブランド”です。
純粋な味の評価で、
両者の違いに違いが見られなかったのが、
”ブランド”が示されることで
コカコーラが優位に立ったのです。

このように商品の質だけで
差別化することは非常に困難です。
人々は感情移入できる商品(ブランド)を
購入しようと意思決定するのです。

2. ストーリーによる差別化戦略

しかし、多くの企業が
コカ・コーラのように
強力なブランドを持っていないのが事実。

これを解決する一つ有効な手段として、
福田正義氏は
ストーリーによる差別化戦略を
説明しています。
商品にストーリーを持たせることで、
消費者にとってそれは特別な商品になり得ます。

例として、
お餅を売る場面を考えましょう。
「これはお餅です、買ってください。」
とただ説明しても数多の商品に
埋もれてしまいます。

しかし、これを
「江戸時代から続くお店で、
原料からこだわり抜いてお餅を作っています。
そして売上を私自身が経験した
難病を患う子供達を救うために使います。
買ってください。」とするとどうでしょう。

このストーリーが消費者の心に刺さり、
購入理由となり得ます。
ストーリーによって同じ餅でも、
消費者にとっては特別な商品になります。

ストーリーによる差別化の重要点は、
コア・バリューを明確にすることです。
コア・バリューとは
消費者に伝えたい価値観です。

ストーリーを通じて
コア・バリューを伝えているつもりでも、
消費者が認識していなければ
それは無意味になります。

コア・バリューを明確にしたことで
業績をV字回復させた好例が丸亀製麺です。

丸亀製麺はうどん専門の飲食店で、
創業時からのこだわり(コア・バリュー)は、
「出来たての感動を届けたい」でした。

しかし、
消費者にそのこだわりは届いておらず、
年々業績が悪化していました。
そこでCMにおいて「すべての店で、粉からつくる。」
とコア・バリューを前面に押し出します。
すると、消費者にその想いが届き業績が急回復したのです。

このように
ストーリーを活用することで
商品を差別化していくことができます。

加えて、
ストーリーで伝えたい
コア・バリューを明確に定義し、
消費者に意図した通りに伝わるように
設計することが必要不可欠です。

3. 憤りから生まれるポジショニングの軸

コア・バリューを伝える時、
それが消費者にとって
意味のあるものでないといけません。

ゆえに、コア・バリューは、
消費者が何を求めているか
市場機会を特定する環境分析を基に
設計されることが重要です。

環境分析を行って、
どこにポジショニングを取るかを考える時、
軸で考えることが有効になってきます。
一軸だけでなく
縦と横の二軸で考えることで
唯一無二の存在を築くことができます。

上記の丸亀製麺(うどん業界)を例にすると、
横軸が「個人商店かチェーン店か」、
縦軸が「麺が工場生産か手打ちか」になります。

この二軸から丸亀製麺は
「チェーン店」×「手打ち」
のスペースが空いていることに気が付いたのです。

このような環境分析から
「すべての店で、粉からつくる。」
というコア・バリューを打ち出し、
「チェーン店かつ安くて早いのに手打ち」
という独自のポジションを手に入れました。

軸を考える際、
なかなか的を得た軸を見つけられない方も
多いと思います。
しかし、福田正義氏は
「軸を決めようとするから軸が決まらない」
と説明しています。
軸は決めるものではなく、
顧客の”憤り”から自ずと生まれてくるものなのです。

例として、AKB48があります。
消費者(ファン)の
「アイドルに会いたい」
「メジャーアイドルにも会いたい」
という”憤り”から、
「マイナーアイドルかメジャーアイドル」、
「会えるか会えないか」の二軸が
自然と浮かび上がってきます。

この軸からAKB48は
「会いに行ける(メジャー)アイドル」
という独自のポジションを獲得しました。

このように、
ポジショニングを考える時は
軸が有効になります。
そしてその軸は消費者の
憤りから見いだされることが多いのです。

***

私たちが生きる今の時代は、
質の高い商品が数多く存在します。
つまり、質(機能)だけで
商品を差別化することが
極めて困難になっているのです。

その結果、
消費者は質だけが良い商品に
目もくれません。
新たな付加価値として
憤りから生まれる
独自のストーリーを持たせることで、
消費者にとってその商品は唯一無二となるでしょう。

本記事の作成者: 下境田 直也