更新日:2023年12月26日

【無料レポート】

生き残る会社をつくる「守り」の経営
〜守りの重要性とは?〜


ビジネスバンク 代表取締役 浜口隆則
著者 / 浜口 隆則
株式会社ビジネスバンク
代表取締役社長

横浜国立大学教育学部卒、ニューヨーク州立大学経営学部卒。
会計事務所、経営コンサルティング会社を経て、大好きな起業家を支援する仕事をするために20代で「日本の開業率を10%に引き上げます!」をミッションにした株式会社ビジネスバンクを創業。現在は起業支援サービスを提供する複数の会社を所有するビジネスオーナーであり、アーリーステージの事業に投資する投資家でもある。「幸福追求型の経営 / 戦わない経営 / 小さな会社のブランド戦略」など、独自の経営理論にはファンが多い。浜口隆則 著書一覧1浜口隆則 著書一覧-2Facebookアカウントはこちら
Wikipediaはこちらからご覧いただけます。

最も重要な〈前提条件〉

ほとんどの人が忘れてしまう前提条件とは?

経営者の仕事として最も大切な仕事の一つは「経営戦略を考えて会社が進む方向性を明確にしていく」ことです。
 
そして経営戦略を考えるときに致命的に重要なことは「前提条件」を理解しておくということです。前提条件を間違ったまま立てた戦略は、戦略そのもの自体が正しくても、正しい戦略にはなりえません。
 
しかしながら、多くの経営者が前提条件を忘れてしまっています。経営という世界に厳然として存在する前提条件は、厳しい現実でもありますから「忘れていたい」「無視していたい」という気持ちは、一人の実践者としては理解できます。
 
しかし、そのようにして前提条件を無視して立てられた戦略は、それがどんなに良さそうでも最終的な目的を果たすことはできません。ですから、私たちが経営を進めるにあたって「どんな環境なのか?」という前提条件は深く知っておかないといけません。
 
「会社の継続」ということをゴールとしたときに、そのゴールに向かって、私たち経営者が「どのような環境の中を進んでいかないといけないか?」ということを考えてみましょう。
 
道路にたとえると「目的地に向けて、どのような状態の道を進んでいかないといけないのか?」ということです。それは「舗装された楽に進んでいけるような道なのか?」、それとも「ドロドロの進むのが困難な道なのか?」ということです。私たちが直面する現実と言っても良いでしょう。
 
会社の継続を目指したときに「どういう現実が私たちの前に広がっているのか?」という前提条件を深く認識していきましょう。

「滅多に起きない」と言われる大きな変化の頻度

私たち経営者が経営をする上で、最も覚悟しないといけないことを、より
深く理解してもらうために、ニュースなどで報道される「滅多に起きない」
と言われるようなことが「実際どれくらいの頻度で起こっているのか?」を見てみましょう。
 
「100年に1度」というほどのことでなくとも、少なからず会社が直接
的・間接的に影響を受けるような出来事を考えてみてください。
 
どうでしたか? 下の図は私の会社が10周年(2006年)を迎えて「今後も継続してやっていくためには何が必要か?」ということを考えていたときに「外部環境からの影響は、どれくらいあるのか?」ということを分析する
ために始めた年表です(※図は2020年に作成した最新版です)。

世界的に影響を与えたことは、こんなにあります。大小合わせると、さら
に多くなります。
 
この表を書いてもらうと、ほとんどの人が意外なことに気づくのですが、上段の世界的に影響を与えるようなことが「5年に1回」は起きていることがわかります。下段の局地的だけれども、そこに関わりがあるような会社は影響を受けてしまうようなことは、毎年、起こっています。
 
たとえば、2009年のリーマンショックが起きたときは、大企業から研修事業を受託していた会社やコンサルティングの仕事を受けていたような会社はバタバタと廃業してしまいました。大企業が景気の大きな後退を危惧して、一時的に教育などの中長期的にしか成果が出ないような投資を大幅にカットしたからです。同じ原因で、広告宣伝に関係している会社なども大きな影響を受けました。
 
リーマンショックのような世界的に影響を及ぼしたようなことでなくとも、私たちの会社が直接的・間接的に影響を受けるような外部環境の変化は、かなりの頻度で起きています。たとえば、気象災害です。日本は台風や地震などの災害が、少なくない地域でもあります。その一つが近隣で発生したら、直接的な影響を受けます。
 
東日本大震災が発生したときには、東日本に仕入れ先の工場があった会社の多くは、最終製品を作れなくなりました。地域が違って直接的な影響を受けなくても、間接的な影響は受けます。自然災害でなくとも、火事などで関係してい
る工場や倉庫が稼働しなくなっても、大きな影響を受けます。
 
「この20年だけのことなのでは?」と感じるかもしれません。しかしながら、
そうではありません。下の図で確認できる通り、それ以前の20年も同じです。

この20年ほどではないかもしれませんが、大きな変化は起きています。で
すから、「滅多に起きない」と言われるような大きな変化は、実は「5年に1度は起こる」と思っていたほうがいいということです。 

導かれる前提条件

実際、2020年にはコロナウィルスという想定外のパンデミックが発生し、世界中が大きな影響を受けました。多くの方が命を落とされましたし、東京オリンピックも1年延期となり、さらに無観客での開催という異例の事態になりました。
 
産業界では、飲食店や観光業は壊滅的な影響を受けましたし、自動車産業などの製造業でも部品の供給が滞り、一時的に生産不能な状態に陥りました。
 
このようにマイナスの影響を受けるような出来事はないほうが良いに決まっています。しかし、この年表を目の前にして見ると「起こらないこと」を前提条件にはできません。実際には、いつ起こるかはわかりませんが「起こると覚悟」して経営していくべきだということがわかります。
 
外部環境の大きな変化は、会社が経営をしていくときの〈前提条件〉として捉えるべきなのです。

守りが重要になってきている時代背景

変化が常態化した不連続な社会

私たちが今、覚悟しておかないといけないことは「変化が常態化」しているということです。それも「直線的な変化」ではなく「非連続の変化」です。
1990年頃までは、社会の変化が直線的でした。どんどん便利なものが生産されるようになって生活に変化はありましたが、その変化は連続的であり直線的でした。社会全体も目指している方向が同じだったため、わかりやすい社会であったと言えます。
 
社会が成熟したことや、世界が豊かになってグローバル化したことで、これまでと違って不連続な変化が起きるようになりました。情報化社会が、それに拍車をかけて変化のスピードを速くし、変化の波を大きくしています。

世界は常に変化しています。それはプラスの変化だけではありません。
だからこそ「変化こそが常態である」と覚悟しないといけないのです。

成功体験というブレーキ

「変化が常態化」しているというのは世界的な傾向ですが、日本は特に大きなパラダイムシフトが起きて社会構造が大きく変わってきています。それにもかかわらず、変化に適応できていません。
 
こうなってしまった最大の原因は「成功していたから」です。
 
戦後からバブルが崩壊するまで、80年代の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』というベストセラーに代表されるように、日本は世界的に「奇跡と称賛される成功」を遂げていました。
 
しかし1990年代初めのバブルの崩壊以降は、少なくとも世界における相対的な価値は薄くなっています。世界に出てみるとわかりますが、日本のことを話題にする人は確実に減っています。TVなどで「日本はすごい!」という趣旨の番組が人気だったりしますが、それは日本が相対的価値を喪失しているがゆえの断末魔の叫びに近いと感じてしまいます。
 
少子高齢化という現代社会の発展が生み出した最大の問題が、世界に先駆けて最も深刻な状況になっているにもかかわらず、高度経済成長時代と同じような拡大路線で生き残ろうとする戦略は、あまりにも無理があると感じている人も多いのではないでしょうか?
 
この状態は、一旦成功して軌道に乗った会社が、外部環境や社会構造という前提条件が変わっているにもかかわらず、成功したときと同じ戦略を繰り返してうまくいかず、疲弊していき、最終的に廃業していく姿に似ています。
 
成功することは素晴らしいことですが、成功体験はブレーキにもなってしまうのです。

良い時代の方法論を引きずっている日本

変化が激しくなっている要因の一つは、間違いなく情報化社会です。情報は変化を促します。ですから、情報が速く、かつ広範囲に伝わるようになった現代で「変化が激しくなっている」のは当然の結果とも言えます。
 
しかし、なかなか変わっていないものがあります。
それが、私たちの「考え方」です。
 
成功を果たした過去の前提条件は変わらないと信じて、同じ方法論で成長しようとしています。前提条件が変わっているのですから、それでうまくいくはずがありません。
 
ルソーが、こんな言葉を残しています。

われわれが無知によって道に迷うことはない。 
自分が知っていると信ずることによって迷うのだ。

ルソー

成功体験という強い記憶が、今の日本の低迷を招いています。結果として、生産性の低さに象徴されるように、日本全体が衰退してきています。
実際、日本は、いつの間にか「先進国中で最低の生産性」の国になってしまっています。問題なのは「それを実感できていない」ことです。
 
自分の周囲だけを見て安心してはいけません。その周囲全体が低迷していて、全員が間違っている可能性があるのです。
 
変化のスピードは、ますます上がってきています。
これまでの方法や基準を見直すべきときにきているのは明らかです。

中小企業が持つべき基本戦略

社会は大きく変化してきています。これからも変化が絶えないことは、ほぼ間違いないでしょう。ですから、会社を守っていきたいなら、変化しない可能性はあっても「変化することを前提」にしておくべきです。

変化を前提としたとき、考えるべきこと

「変化が常態である」という前提条件を確認してきました。このような状態であれば、自ずと戦略の方向性は決まってきます。
変化が常態化しているということは、「守り」がさらに重要になっているということです。
 
 
会社が船ならば、海の波が高く、激しく刻々と変化しているような嵐の中を進まないといけないとしたら、船が転覆しないように「守り」を考えるはずです。そんなときにスピードを上げたり、「攻め」で対応することは愚の骨頂であることが、すぐにわかります。
 
しかし、これが経営だとわからない。「目に見えない脅威」というのは、理解するのが「想像以上に難しい」のだなと、頑なまでに守りを無視する多くの会社を見て感じます。
実際、本当に多くの会社が間違った考えを持っています。第2章の年表で可視化したのが本当の世界なのに「何事も起こらないことが前提」のように経営していますから、変化に対応できず、波にのみ込まれてしまうのは、当然の結果です。
 
「ものすごく変化する社会、それでも生き残っていかないといけない」と考えると、基本戦略は「守り」であるべきで、このような環境で「攻め」ばかりは無謀だと言わざるをえません。

失敗する多くの会社が間違っている基本戦略とは?

戦略の定義を簡潔に言うと「目的を果たすための方策や方針」のことです。
戦略を考えるときは「方策や方針」を検討することに捉われがちですが、「目的」のほうも重要です。目的を間違ったとき、絶対に正しい戦略にはならないからです。
 
それでは「経営における目的」はなんでしょうか? 社会に貢献していくことや成長し続けることが望ましい姿でもありますが、最低限、経営者が考えないといけないことは「生き残ること」ではないでしょうか?
 
特に、これまで見てきたように変化が激しく起こる社会においては、最善を望むことよりも、最低限のことをクリアすることを考えていくのも必要です。
 
経営で失敗すると、関わる多くの人を不幸にしてしまいます。中小企業であっても、経営に関わる人は多いです。だからこそ、リスクを取ってアクセルを踏みっぱなしにするよりも、リスクを回避しながら生き残る方法も考えておくべきです。
 
それにもかかわらず「生き残っていくための戦略」を真剣に考えていない会社が多過ぎます。
 
このような現状を招いている原因は第6章で後述しますが、「戦略と言えば攻めることだ」というイメージが経営者の頭の中に強くあるからです。ですから「攻め」を戦略の基本においてしまいます。
しかし、私たちがおかれている「前提条件」と「目的」から考えると、それは間違っています。前提条件は変化が激しいということであり、だからこそ目的としては生き残りを考えるべきですから、「攻め」を基本にしてはいけないのです。

社長の仕事 プレゼント

↑冊子の応募はこちらをクリック

「守り」が8割

変化に溺れてしまう会社

変化の激しい中で、資本力の少ない会社が考えるべきことは「守り」のはずですが、多くの会社が経営の基本戦略を「攻め」にしています。そして無謀にも嵐の中に入っていって、溺れてしまっています。
 
変化はチャンスでもあります。しかし、その変化を観察していなければ、変化がもたらしてくれるチャンスに気づかず、チャンスを活かすこともできません。変化から目を背けていると、変化という波にのまれて溺れてしまいます。そうやって変化に溺れている会社が多いのです。
 
ですから「変化に対応できない会社」が多いのではなく「変化を無視している会社が多い」というのが実情であり、大きな課題です。

人は、なぜ変化を無視してしまうのか?

会社を経営するときに影響を受けるような外部環境の変化は、想定している以上に頻繁に起こっているということを見てきました。
 
変化はチャンスでもあります。しかし、多くの会社は、そのチャンスを活かすことができず、逆に変化の影響をもろに受けて廃業への下り坂を転がっていってしまいます。
 
変化そのものを嫌い、変化に向き合っていません。
 
それはまるで、その存在に気づいていながら、見えないふりをしているようです。人はなぜ「変化」を無視してしまうのでしょうか? 様々な理由が考えられると思いますが、根本的な原因が2つあると考えられます。

【人が変化に弱い2つの理由】
① 変化したくない生き物である
② 正常性バイアスが働く

理由①:変化したくない生き物である

人は変化を強いられるとストレスを感じます。なぜなら人は「変わることが嫌い」だからです。
 
人間の身体には「ホメオスタシス」という恒常性機能があります。すべての細胞が連動していて、身体が常に一定の状態を保てるように働いています。気温が暑くなれば汗をかいて体表温度を下げようとしますし、寒くなればブルブルと震えることで体温を上げようとします。
 
このホメオスタシスは生理的な働きですが、私たちは心理的な面でもホメオスタシスを持っています。多くの人が実感することだと思いますが、人は簡単には変われません。
 
たとえば「成功している人には早起きの人が多い」と知ったとしても、翌朝から急に早起きができるわけではありません。新しい行動や習慣を取り入れるのは、なかなか難しいことが多いです。変えようと決意して行動してみても、三日坊主という言葉に代表されるように、元に戻ろう戻ろうとします。
 
つまり、人は本来、変化を受け入れることを嫌う性質が強く、「今までと同じようにする」ことが最も楽であり、心地が良いのです。
 
もちろん、変化を受け入れられることができなければ、人類は生き残ることはできなかったでしょう。変化を受け入れて進化してきたからこそ、長きにわたって地球という厳しい環境の中で発展してこられたわけです。
 
しかし、そうやって変化することができたのは「生命の危機」という目に見えて明確な理由があったからです。命を守るということは強い動機です。だから、変化を受け入れることができたのです。
 
一方で、現代は良い意味でも悪い意味でも「生命の危機」というような致命的で明確な危機はありません。命の尊厳を脅かすような危機は間接的に存在はしているのですが、それを感じ取るのは非常に難しいと言わざるをえません。
 
実際には、変化を無視して何もしないでいると危機的な状況に進んでいることが多いのですが、その危機を感じることが難しくなっているのです。
 

理由②:正常性バイアスが働く

守りの経営 正常性バイアス

参照元は こちら


「理由①変化したくない生き物である」が根源的な原因なのですが、その根強い「変わりたくない」という動機から、私たちは事実を歪めて認知してしまいます。そういった認知の歪みは「バイアス」と呼ばれています。
 
この「認知の歪み」は、経営を実践する社長には知っておいたほうがいいというアドバイスをしていますが、実はとても多くて400近くもあります。
 
それらのバイアスの中で、変化への対応を遅らせてしまう原因となるものが「正常性バイアス」です。「正常化の偏見」とか「恒常性バイアス」とも呼ばれます。
 
「自分は大丈夫だろう」と災害などの危険性を低く見積もってしまう心理傾向のことであり、危険な状態なのに「危険じゃない」と捉える認知の歪みです。災害などが発生したときに逃げ遅れてしまう人が多いのは、この「正常性バイアス」が働くからだと言われています。
 
本来は危機管理能力に長けているべき経営者にも、この傾向が強い社長も多く、他の会社が倒産したり、他の社長が失敗して苦しんでいたりしても、根拠なく「いや、自分は大丈夫だろう」と考えています。ですから、世の中の変化に気づいたとしても「自分は変わらなくても大丈夫だろう」と考えて、結局、変化の波にのまれて失敗していってしまいます。
 
人が必ず持っている、これらのバイアスの問題は「認知そのもの」が間違っているので非常に難しい問題ですが、私たちが、まずできることは「自分がこのような認知の歪みを持っている」ことを理解しておくことです。
 
「認知バイアスを、認知する」ことが重要です。
 
人は「明日も同じような日が続く」と思い込む傾向が強いです。
そして油断(安住)してしまうことが多いのです。

「守りという軸」で会社を再構築する

会社経営を進めていくにあたっては、もちろん、攻めていくことも重要ですが、あまりにも攻めだけが礼讃される傾向にあるので、少し強めに「守り」を意識したほうが良いです。
 
スポーツの世界を想像してもらえるとわかりやすいかもしれません。強い選手やチームは「実は守りが強い」ということが多いです。イタリアのサッカーなどは典型的な例です。ファンタジスタという言葉に表現されるように、一見すると派手な印象がありますが、イタリアサッカーの強さの土台は「守り」でありディフェンスです。彼らは本当に勝たないといけない試合ではガチガチに守ります。
 
テニスでも、強い選手は攻撃力がクローズアップされがちですが、よくよく分析してみると、ディフェンス力が最大の武器になっていることが多いです。野球でも、同じです。オリンピックや世界大会のように、勝たないと先がないような試合では、多くのチームがディフェンスを重要視しますし、ディフェンスが強いチームが勝つ傾向があります。
 
攻めの戦略が不要なわけではありません。スポーツの世界で見るとわかりやすいように攻守のバランスが大事ということです。
 
特に経営では「変化が常態化した不連続社会」という外部環境が守りの重要性を高めていますから、「攻めという軸」で構築された会社の仕組みを、改めて「守りという軸」で見直し、再構築することが必要になってきています。
 
ですから「守りが8割」くらいに考えたほうがいいです。
 
会社を「守り」という観点から見直し、再構築していくキッカケを作るのが、本レポートの役割であり、守りを強化していくことは、多くの会社の廃業や失敗を防ぐための最も有効な戦略の一つだと考えています。

最も危険な状態は「問題の存在に気づいていない」とき

前章までは、会社の「守りの重要性」について見てきました。経営における「守りの重要性」を理解して実践していくことは、会社の継続性にとって致命的に大切なことです。
 
ですから、経営者は、もっと「守り」を強く意識すべきです。特に成功して軌道に乗っている会社であるほど、守りに転換していかないといけません。
 
しかし、その転換がうまくできない会社が本当に多いです。
 
その原因は、どこにあるのでしょうか?
原因は「社長」にあります。

問題に気づいていないことが、最大の問題

本無料レポートを読まれている方々は「守りの重要性」に気づいていたり、関心があるはずなので、ある意味「最初で最大の壁」を超えていると言えます。
 
何事もそうですが、最も問題が深刻なのは「問題の存在に全く気づいていない」ときです。車を運転した経験のある人が多いと思いますが、車を運転しているときに、深刻な事故だけでなく、壁に擦ってしまったりとか、何かにぶつけてしまったりしたようなときって、どういうときでしょうか?
 
障害物に「気をつけていたにもかかわらず、ぶつけてしまう」こともあるかもしれませんが、たいていは、そうではありません。障害物の存在に気づいているときは、そこにぶつけることは、ほとんどないと思います。
 
ぶつけてしまうようなときというのは「何か別のことをしている」ときとか「別のことに意識がいってしまっている」ときなど「そこに障害物があるという障害物の存在そのものに気づいていない」ときが、ほとんどなはずです。つまり、意識できていないときが「最も危険である」ということです。
 
経営をするときにも、車を運転するときと全く同じことが言えます。残念ながら、多くの社長が失敗していきますが、それは、そもそも問題に気づいていないことが多いからなのです。
 
「守りの重要性」に気づいていないということが、守りができていない最大の原因です。これが最も危険な状態です。車と同じように、多くの経営者は障害物の存在に気づかないまま事故を起こしてしまっています。

交通事故の原因と会社の失敗

守りの経営

実際、多くの事故は「気づいていないこと」が原因で起こっています。以下は、ある年の交通事故の発生要因の割合です。
 
〈交通事故の発生要因〉
① 安全不確認(30.7%)
② 脇見運転(15.6%)
③ 動静不注視(11.3%)
④ 漫然運転(8.6%)
⑤ 運転操作不適(6.6%)
 
①~④で66.2%もあります。一方で、運転操作のミスは6.6%しかありません。交通事故のほとんどは不注意から起きています。この傾向は、過去数年を見ても基本的には同じです。つまり、事故は「問題に気づいていないから」起きているのです。
 
交通事故の発生原因が「問題に気づいていないから」起こるということと、経営の失敗が87%にもなっている発生原因は、基本的には同じです。経営を進めるにあたっては、配慮しないといけない様々な要素がありますが、それらの存在に気づいていないから失敗するのです。
ですから、問題を意識できていれば、多くの失敗は回避することができるはずです。

多くの社長が間違った戦略を持ってしまう《5つの原因》

では「なぜ多くの経営者が守りの重要性に気づかないのか?」を見ていきましょう。
何千人もの経営者と接してきて「5つの原因」があることに気づきました。

原因1:攻守の切替えができない

上の図は、会社が発展していく状態を表しています。
 
時間の経過とともに「会社がどのように軌道に乗っていくか」というと、最初はなかなかうまくいかないわけですが、どこかのタイミングでうまくいくようになって急激に良くなっていきます。その後は、安定軌道になっていきます。こういう展開になることが多いです。
 
前半の時期は0から全てを築いていかないといけないフェーズです。顧客も売上げも0から始めて開拓していかないといけません。ですから、このフェーズでは攻める必要があります。つまり攻めを戦略の基本にして良いフェーズです。
そうしないと突破することが難しいです。
 
しかし、後半の時期は築き上げた成功度や規模を安定して継続するフェーズに入っていかないといけません。ですから、このフェーズでは守りが戦略の基本になってきます。攻撃よりも守備が大事になってくるのです。
 
前半の0から軌道に乗せるまでを「攻めの姿勢」で苦労しながら頑張って実現させるので、その方法論が社長に染みついてしまいます。社長の「成功体験」として強く記憶に刻まれてしまいます。
 
ですから、多くの社長は前半から後半に移行したときに「攻守の切替え」ができないのです。ずっと攻めの戦略でやってきたので、急に守りを戦略にできないわけです。
 
攻めていくことで成功体験を得てしまうので、守りが重要なフェーズになっても「攻めることが重要」だと思い続けてしまいます。結果として、ディフェンスが重要になっているにもかかわらず「ディフェンスができないまま」という状態を生んでしまいます。

原因2:大企業・ベンチャーの戦略に惑わされる

戦略は前提条件によって変わってきますから、取るべき戦略が、会社の資本力によって違うはずです。
 
大企業のように資本力があれば、攻めて失敗しても許容範囲が大きいです。しかし中小企業のように資本力が弱いと、1回失敗しただけでも倒産してしまう可能性があります。ですから、資本力が弱い中小企業が取るべき基本戦略は、攻めのほうではなく「守り主体」であるべきです。

この図のように縦軸に会社の「資本力(≒リスクの許容範囲)」と横軸に「取
るべき戦略」を使って資本力と戦略の関係を可視化してみます。中小企業は資本力が低いですから下のほうにあります。大企業は資本力が高いですから上のほうにあります。
 
大企業は資本力が強いです。そして、ベンチャー企業のようなスピードで成
長しようとはしていませんが、株主の圧力もありますから、ある程度の成長
はしたいと考えています。また全体ではないですが、一部は新しいことに挑
戦していますから、上の図の「大企業」の場所に位置しています。
 
ベンチャー企業は上の図の「ベンチャー」くらいの位置を宿命付けられ
ています。お金をたくさん集めて「できるだけ速いスピードで成長する」と
いうことを期待されて投資されているわけですから、急成長という戦略を取
らざるをえないわけです。
 
私もベンチャー企業に投資をしているので実感できますが、ベンチャー企業は攻め続けることを期待されています。投資家から集めたお金を使って、リスクを取ってでも短時間で成長拡大することを期待されています。だから、攻めます。乱暴な言い方をすると、半分、失敗を覚悟で突っ込んでいきます。これは株式会社が生まれた構造・原理そのものですから悪いことではありません。急成長をするためにはリスクを取らないといけませんが、そんな莫大なリスクを経営者個人が一人で負うことはできません。ですから、経営と資本を分けて、資本は投資家から集めてリスクを分散して、経営者はリスクを覚悟で突っ走っていきます。
 
このように大企業とベンチャー企業は成長戦略を取っていきます。というか、取らないといけない会社なのです。
 
しかしながら、中小企業は違います。「どの位置に存在すべきか?」というと、資本力が低くて、成長よりも生き残りの戦略を取るべきですから、右ページの図の左下のような位置にいるべきです。
 
資本力が低いという前提条件があるということは「失敗に対する許容量が低いわけです。ですから、最初に考えるべきことは「生き残る」ということです。急成長させるということは、それだけリスクが高くなっていくということですから、資本力が低いのにもかかわらず急成長のリスクを取るということは無謀だということがわかります。
 
それにもかかわらず、大企業やベンチャー企業が攻めの戦略でガンガンやっていると、目立ちます。こんなことをやった、あんなことをやったと、攻めの戦略でやったことをメディアなどで目にする機会も多くなります。
 
ですから、どうしても大企業やベンチャー企業がやっていることを見る機会のほうが多くなって影響を受けてしまいます。そういった資本力を背景にした攻めの戦略が「全ての企業における正しい戦略」だと勘違いしてしまうのです。
成長を余儀なくされた会社群によって惑わされてしまうということです。
 
中小企業が右上に行ってはいけません。もちろん、アクセルを踏んで成長を目指す期間も必要でしょう。しかし、基本的には、資本力の高い会社と資本力の低い会社では取るべき戦略は違うはずです(いや、全く違っていいです)。
 
自社に見合った戦略を取ることが重要ですから、中小企業はガチガチに守るくらいで良いと思います。
 
大企業やベンチャー企業は全体の1%以下しか存在していません。
ですから、世の中の99%の会社は守りを重視すべきなのです。

原因3:成功者のポジショントーク

3番目の原因は、2番目の原因と少し似ています。ビジネスにおける成功者が様々なことを言います。メディアに出たりする経営者も皆さんの周囲にもいらっしゃるかもしれません。
 
成功者が自分の「成功した理由」を語るときには「自分は、こうやって成功した」という何らかの特徴が欲しいものです。できれば、その特徴によって他の経営者とは違うユニークなポジションを築きたいと考えていたりします。ですから、人の関心を得やすい「攻めの戦略」を語ることが多くなります。
 
自分が望む「ポジションを確立させる」内容を中心に話をするようになるということです。たとえ実際の現場ではバランスに気をつけていたとしても、特徴のある部分の内容に偏ってしまいます。こういった話し方をポジショントークと言います。
 
成功者は「地道に守っています」とは言いたくないのです。「会社は攻め続けないといけない」という攻めの姿勢のほうが見栄えがするのを知っていますし、メディア受けもします。ですから「攻め続けている」という姿勢を保つことが多いです。
 
それを見たり聞いたりしてしまうので、多くの経営者は攻めこそが成功への道であるという考えを強化してしまいます。本質的に正しいか正しくないかではなく、世の中に出て目にするか目にしないかの違いで影響を受けているということです。
 
一方で、「守り勝ち」をしている経営者は地味です。メディアにも出てきません。しかし、何千社もの実情を見ていると、そういう経営者こそが本当の成功者であることがわかります。

原因4:「強者=攻め」という思い込み

これまで見てきた3つの原因が相まって「攻めが戦略の基本として正しいのだ」という考えが強化されていきます。
 
それが強いメンタルブロックになっていきます。「強者=攻め」という強い思い込みになってしまうのです。「強者というのは攻めるものだ」という思い込みです。
 
経営者は「会社を強くしたい」と考えていると思います。そうやって会社の強化を考えるときに「強くあるためには攻め続けることが重要だ」「攻めの姿勢でいることが必要だ」ということが刷り込まれてきているので「強くする=攻めないといけない」という発想から抜けられなくなっていきます。
 
結果として「守ることは弱者のすることだ」と思うようになってしまいます。
そして、守りを疎かにするようになってしまうのです。

原因5:一時的な成功で油断してしまう

社長に対してアドバイスしていることの一つに「欲のコントロール」があります。
 
中長期的に経営を成功させ続けるためには「欲のコントロール」が重要になってきます。欲はプラスにも働きますが、暴走してマイナスにも働くことが多いからです。特に、一旦成功して軌道に乗った社長は「欲が暴走する」こともあるので注意が必要です。
 
一方で、満足し切ってしまうことにも問題があります。特に、低いレベルで満足して慢心してしまうのは良くありません。「満足欲」という欲を簡単に満たしてしまうのは「ほどほど」であればプラスに働きますが「行き過ぎる」とマイナスに働きます。
 
経営を継続していくためには、長く続く道のりの所々で満足感を味わうことも大事なことではあります。しかし満足し切ってしまうと、そこから積極的に何もしなくなってしまいます。
 
「一時的な成功で油断している」状態になります。
 
満足してしまい、何となく「このままで大丈夫だ」などと考えていると、守る必要もないので、ディフェンスの必要性を感じなくなってしまうのです。
 
私たち経営者が守りを意識できなくなってしまう原因を見てきました。これらの原因によって「守りの重要性」に気づきにくくなっているわけですが「守りの重要性」は厳然として存在します。
 
 
第5章の冒頭で解説したように、最も危険な状態というのは「問題に気づいていない」ときです。ですから、気づくことができれば、最悪の状況からは抜け出せるわけです。多くの経営者は、元々は優秀な人が多いですから、この盲点のような「実は守りが重要」ということに気づけば、会社の生存率は一気に上がるハズです。
 

プレジデントアカデミー「経営」「社長の仕事」が学べる 無料レポート