「人的資本経営」という言葉を聞いたことはあるけど、具体的にどういうことなのか?どう取り組めば良いのか?わからないと思っている方も多いでしょう。

今回は人的資本経営とはなにかという基本的なことから、なぜ最近注目されているのか、実施するときのポイントなど、包括的に説明します。人的資本経営について気になっている方はぜひご覧ください。

人的資本経営とは

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材に対して戦略的に管理や投資を行い、その能力を最大限に引き出すことで企業価値を向上させる経営手法です。人的資本経営には、人材の採用や教育、配置、人材開発といったことから、評価や報酬制度の適正化、などが含まれます。

人的資本経営はなぜ注目され始めた?

人的資本経営が注目され始めた理由は、以下の2つです。

・経営環境の変化
・人材不足

今なぜ、人的資本経営がさらに注目され始めたのか、その理由も説明します。

経営環境の変化

一昔前まで、企業は技術や設備、資本などの物的資本を重視していました。それらを有効活用したり効率的に使うことが利益に直結したからです。

しかし、グローバル化の進展やインターネットが社会に普及したことで、企業競争が激化するようになりました。結果として、物的資本を活用するだけでは企業が競争優位には立てずなくなりました。これまでにない新しいヒント・アイデアが優位性をもたらすヒトの創造性=知的資産が重要になったのです。

人材不足

2022年9月時点で人材不足企業の割合は、正社員で約50%になりました(帝国データバンク調べ)。このように、現代では人材不足が顕在化しており、企業は人材を確保するために、採用をしてから効率的に人材の育成を行わなければいけなくなりました。

このため、企業は人材の能力を最大限に発揮させるために、育成をはじめ、評価や報酬制度の適正化などを行う必要が出てきました。結果として「人的資本経営」という言葉が注目されるようになったのです。

人的資本経営に取り組んだほうがいいの?

人的資本経営に取り組んだほうがいいの?

経営者の方で「人的資本経営に取り組んだほうがいいのか、取り組んだことで自社の利益は大きくなるのか」がわからない方も多いでしょう。結論としては取り組んだほうが良いです。

なぜなら、人的資本経営を行うことで、従業員のモチベーションの向上や人材の確保のしやすさにつながる可能性が高いからです。

ものすごく極端な例えをすると「自分の得意(好き)なことを任せてくれるA社」と「自分の不得意(嫌い)なことしか任せてくれないB社」だとどちらが働きやすいと思うでしょうか。おそらくほとんどの方がA社を選ぶでしょう。

自分の得意(好き)なことを任せてくれると、自然と従業員のモチベーションも上がり、そのような口コミなどが広まれば、優秀な人材も集まってくるかもしれません。

あくまでも、上記は極端なたとえなのですべてが例のようにいくわけではありませんが、得意(好き)を伸ばすような人的資本経営を推進すれば、利益に直結するようなさまざまなメリットがあります。

人的資本経営に取り組むときのポイント

人的資本経営に取り組むときのポイント

人的資本経営に取り組もうと思っても、どのようなポイントに気をつければよいのかがわからない方も多いでしょう。ここからは、人的資本経営を取り組むときのポイントを経済産業省が発表している「人材版伊藤レポート」の内容をもとに説明していきます。

人的資本経営を実施するときの3つの視点

「人材版伊藤レポート」では、人材戦略における3つの視点を説明しています。

経営戦略と連動した人材戦略

企業を成長させるためには、人材が必要です。そのため、経営戦略と人材戦略は必ずと言っていいほど連動してきます。

策定した経営の方針(経営戦略)を実現するためにどのような人材が必要なのかを決めなければいけません。経営戦略に基づいて、その人材をどのように活用するのか、どのような育成や配置をするのかなどを決めていく必要があります。

目標と現状のギャップの把握

企業を成長させるためには、目標と現状のギャップを把握し、それを埋めていかなければいけません。もう少し具体的にいうと、経営戦略や人材戦略などのギャップを常に把握しておく必要があるということです。

企業文化として定着させる

企業のビジョンやミッション、パーパスなどの企業文化の定義と浸透理解が人的資本経営を行う上では重要です。

ビジョンやミッション、パーパスなどは経営者が決めるものではありますが、それらに向かって進むのは経営者だけではなく、従業員も一緒です。そのため、人材戦略を決めるにあたり、どのような行動をすればよいのか、どのような目標に向かって進むのかを定義して・浸透理解させておく必要があります。

人的資本経営を実施するときの5つの要素

「人材版伊藤レポート」では、人的資本経営を行うにあたり、上記の3つの視点に加えて、以下の5つの要素も重要だと説明しています。

動的な人材ポートフォリオ

「動的な人材ポートフォリオ」と聞いて、すぐに意味がわかる人はいないでしょう。この言葉は「動的」と「人材ポートフォリオ」という2つの言葉から成り立っています。

まず「動的」とは現在の状況を常にリアルタイムで把握できることを意味します。「人材ポートフォリオ」とは、どのような経験を積んできて、どのようなスキルを持っている人が、どの部署に何人いるのかを示したものです。

この動的な人材ポートフォリオを整備することで、自社の従業員の状況が適切にわかるようになります。それだけではなく、従業員の能力を最大限引き出すための施策もとりやすくなるでしょう。

知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

さまざまな経験や価値観、専門性を持った人を雇用し、活かしていくことが人的資本経営においては重要です。これは人的資本経営が注目されるようになった理由の一つでもある、人材不足の解消にもつながってきます。

現代は、価値観が多様化していているため、偏った経験や価値観の人ばかり集めてしまうと、何かしらのリスクが生じる可能性があります。そういったリスクを減らすという意味でも、さまざまな経験や価値観を持っている人を採用するのは重要です。

加えて、これまで社内にいなかったような人を採用することで、これまで生まれなかったアイデアなどがうまれる可能性も高まり、企業の成長に役立つかもしれません。

リスキリング

従業員が自分の能力を最大限に発揮するためには、ときには学び直しだったり、新たな分野について勉強する必要が出てきます。そうしたときに適切な支援ができるようにしておくのも大切です。

従業員エンゲージメントの向上

従業員エンゲージメントとは、自社への愛着や自社に貢献したいという意欲などのことです。従業員エンゲージメントを向上させるには、自社の経営理念と個人の成長の方向性が同じでないといけません。

そのためには、そもそも採用の段階で方向性が同じであることを確認するのは大前提ですが、社員が納得のいく経営戦略の構築や働きやすい環境の整備などを行っていく必要があるでしょう。

時間や場所にとらわれない働き方

新型コロナウイルス感染症の影響で場所にとらわれない働き方の「リモートワーク(テレワーク)」が増えました。また、時間にとらわれない働き方の「フレックス制」などを導入する企業も増えてきています。

まとめ

今回は人的資本経営の基本的なことから、人的資本経営に取り組む際に気をつけておくべきポイントを説明してきました。企業活動において物的資産は必要ですが、それ以上に人材がもたらす知的資産はもっと重要です。

今回紹介した内容をもとに人的資本経営をぜひ実践してみてください。


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