経営を行う上で出てくる問題の一つが後継者問題です。跡継ぎを誰にするのかは、変わった後の経営方針を大きく左右するだけでなく、今現在の経営方針にも関わる問題です。

跡継ぎを決め、そして育成するには少なくとも10年から20年の時間がかかるといわれています。会社を自分のあとに託す人をみつけ、育成する跡継ぎ問題を今回は取り上げます。


跡継ぎ問題の現状

日本は、世界の中でも特異なほど長寿企業があります。その理由の一つは、家父長制による親族経営の企業が多いからとも言われています。しかしながら、現在では、少子化を主な原因として、このような家父長制の体制をとってきた多くの企業で後継者不足が問題となっています。

この跡継ぎがいないという問題の解決策として、近年多く見られるのがM&Aです。事業を承継できないのであれば、売ってしまおうというのが今では多く見られます。

しかしながら、事業承継では、親族への承継やM&A以外にも方法があります。次章では、跡継ぎを選ぶ際や事業承継の際に気を付けるポイントを解説します。その内容を参考に会社をより良い方向へ導きましょう。


跡継ぎの方法1:親族内承継

跡継ぎの見つけ方で最も一般的なスタイルは、この親族内承継でしょう。自身の親族の中から、経営者を見つける方法がこの「親族内承継」に当たります。

では、跡継ぎを親族の中から選ぶ際のメリットやデメリットとはどのようなものなのでしょうか?

メリット

親族内承継のメリットは次の3つがあります。

・跡継ぎへの教育が長い時間をかけられる

・相続税などの税金対策

・跡継ぎへの信頼を置きやすい

まずは、1点目、跡継ぎへの教育に長い時間をかけられることに関してですが、このメリットは非常に有です。跡継ぎの選定から始まり、経営者の仕事の整理から、取締役会での承認、また社内への通知など事務的作業だけでも多くの時間がかかる事業承継ですが、ここにさらに跡継ぎを経営者として自立できるよう教育することが必須となります。

このプロセスは非常に重要で、跡継ぎの人が、事業を実際に引き継いだ後に、成功し続けることができるかの大きな分岐点となります。そのため、このプロセスには20年間かける経営者もいるほどです。そのため、親族内で、あらかじめ跡継ぎを決め、長い時間をかけて育成できることはほかの跡継ぎの方法に比べて大きなメリットといえるでしょう。

つぎのメリットは税金対策が行える点です。事業を親族内で承継することによって、生前贈与ができ、節税につながるといわれています。事業を家族単位で行う会社が多い日本ならではのメリットですが、家族で事業を行っている人には非常に有効なメリットでしょう。

3点目は跡継ぎへの信頼が置きやすい点です。経営者にとっては、いままで育ててきた事業を譲る相手であるため、その跡継ぎが信頼できるかどうかは非常に重要です。その点、親族内承継であれば、子供のころからの様子を見れるため、信頼が置きやすいというのが、大きなメリットとなります。

デメリット

・古参の社員と跡継ぎの関係性

・適任者の不在

・親族内でのトラブル

親族内で跡継ぎをみつけることは多くのメリットがある半面デメリットもあります。1点目は、古参の社員と跡継ぎの関係性に関してです。古参の社員は、多くの場合、跡継ぎを子供の頃から見てきている場合が多いです。

そのため、現在の経営者とはうまくいっていても、その子供に経営権が移り、跡継ぎが経営者として働き始めても、会社のことをより知っているのは古参の社員であり、新しい経営者のいうことに対応指摘売れないなどの問題が生じます。特に、跡継ぎが経営者として就任し、今までと変わった新しいことにチャレンジする際などは、古参の社員の理解を得ることは非常に難しいのが一般的です。

親族内で跡継ぎを決める場合は、古参の社員の理解を得ることが非常に重要でしょう。

2点目は適任者の不在です。親族内に絞って、跡継ぎを探すため、必ずしも経営者としての資質が備わった人物がいない場合もあります。限られた選択肢しかないために生じるデメリットです。

3点目は、跡継ぎをめぐっての親族内でのトラブルが生じる事です。メリット部分でも紹介しましたが、親族内で跡継ぎを決めると、事業の引き継ぎのために多くの財産が跡継ぎに譲渡されます。そのため、親族内で差が生まれてしま士、争いの原因となってしますことがあります。ただでさえ、跡継ぎ探しに加えて、親族内でのトラブルも発生すると経営者にとっては非常につらい状況となるでしょう。親族内で跡継ぎを探す場合は、親族からの理解を得られるような形で取り組むことが一番重要です。

跡継ぎの方法2:親族外承継

跡継ぎを、親族の中から探すのが、もはや当たり前ではなくなっています。そこで生まれてきた選択肢の一つが親族以外から跡継ぎを探す方法です。この親族外承継はM&Aではなく、従業員や外部から経営者を選ぶ方法になります。

M&Aとの大きな違いは、親族外承継では、経営権のみを譲ることもできるところです。そのため、社員から一時的な社長を選び、株式は創業者親族で保有し、将来再び経営に戻ることもできるのです。

メリット

・後継者候補の幅が広がる

・社員との問題が少ない

1点目のメリットは、親族内承継に比べて、親族外承継は社内だけでなく、社外からでも必要な人材を探すことができます。

したがって、多くの選択肢が生まれ、多くの人材から最適な跡継ぎを探すことができるのです。

2点目は社長の交代にあたって社員との衝突が少ないことです。社員の中から社長が選ばれることで、今までの企業理念に則った経営が行われることが多く、スムーズな事業継承となるでしょう。

一方で、外部から呼び込んだ人を跡継ぎとする際は、今までの古参の社員との意見のすり合わせは非常に重要となります。

デメリット

・経営者としての資質が不十分な人しかいない可能性がある

・跡継ぎの資金力不足

経営者として求められる力と、社員として求められる力には違いがあります。社員か跡継ぎを決める場合、多くの場合は優秀な社員から選ばれますが、このプロセスには落とし穴があります。必ずしも優秀な社員は優秀な経営者になれるわけではありません。跡継ぎを選ぶ際は、経営者として必要な資質が備わっているかを見極める必要があるでしょう。

2点目は跡継ぎとなる人の資金不足です。この問題が発生するのは、会社の経営権とともに株式などの資産も引き継ぐ場合ですが、資産をすべて引き継ぐことができる社員は多くないのが現実です。株式なども引き継ぐ場合は、跡継ぎとなる人が適正な資金を持っているかどうかも大きな問題となります。


跡継ぎとなる人に必要な資質

跡継ぎを選ぶことは非常にたいへんな作業ですが、事業を引き継ぎ継続していく人も、引き継いだその日から経営者としての仕事が始まります。ここでは、そんな跡継ぎとなる人に求められる資質をまとめました。

社員時代に育てられる部分

・実務経験

・経営能力

実務経験は社員時代に必ず学んでおかなければならない事の一つでしょう。様々な職務に就いて、幅広く会社全体の業務を把握しておくことが重要です。

2点目は、経営能力です。社員として優秀でも、経営者として優秀になれるわけではありません。なぜなら、経営者と社員では求められる力が異なるからです。そのため、この力はなかなか社内で鍛えることは難しいですが、グループ会社や子会社の経営に携わってみたり、グループの中での経営を考えて取り組むなど、少し意識的に工夫をすることで社員時代でも鍛えることはできます。

跡継ぎとなる人に求められる生まれつきの性質

跡継ぎに必要な資質には、ひとつ前の節のように社員時代の中で育てられる資質以外に、あらかじめ求められる資質が存在します。

・経営を引き継ぐ覚悟

・経営理念の理解・共感

・リーダーシップ、決断力

跡継ぎとなって、経営権を握るということは、会社の従業員に対しての責任を負ったり、事業に関してのお金に関しての責任を持つこととなります。自分の一つの決断が、多くの人の生活に影響を及ぼし、変化させることに対しての覚悟が求められるのです。

2点目は、跡継ぎとなるうえでもっとも重要な側面ではないでしょうか。ミッションをはじめとした会社の理念を理解していなければ、社員との調和もとれず、経営はすぐに傾いてしまうでしょう。

3点目は、リーダーシップや決断力といった人間性の部分です。跡継ぎとなり、経営を行う中で、日々、重要な判断を求められます。このような決断を得意とする人と、苦手とする人がいますが、得意な人は跡継ぎに向いているかもしれません。なかなか鍛えられる部分でもないので、自分に跡継ぎは合っているのか、もしあっていないなら決断を得意な人材はいないかなど解決策を探しましょう。


今回は、跡継ぎを探すこと、跡継ぎに必要な資質に注目して事業承継に関しての問題を取り上げました。跡継ぎを探す側も、跡継ぎとなる人もともに大変な苦労を要しますが、良い事業承継は承継後の経営を決めるといっても過言ではありません。時間をかけて確実な事業承継を行えるような準備を行いましょう。


【ライター】
田中 大貴
株式会社 Urth CEO

大学では、建築学を専門としながら、2018年4月からは早稲田大学で「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を受講。 その後、文科省edgeNextプログラムの一つである、早稲田大学GapFundProjectにおいて2019年度の最高評価および支援を受け、起業。 早稲田大学建築学科では、株式会社エコロジー計画とともに、コンサートホール、宿泊所の設計、建設に取り組んだ。現在は、「〇×建築」をテーマにwebサービスの開発、営業から、建築の設計及び建設物の運営に関するコンサルタントまで幅広い事業を行う。


【監修】
野田 拓志
株式会社 ビジネスバンクグループ
経営の12分野ガイド
早稲田大学非常勤講師

大学時代、開発経済・国際金融を専門とし、 その後「ビジネス×途上国支援」を行う力をつけるために一橋大学大学院商学研修科経営学修士コース(HMBA)へ進学。 大学院時代に、ライフネット生命の岩瀬氏や元LINEの森川氏に対して経営戦略の提言を行い、そのアイデアが実際に事業に採用される。 現在は、「社長の学校」プレジデントアカデミーの事業部長として、 各地域の経営者の支援やコンサルティングを行う。2017年4月からは早稲田大学で非常勤講師として「ビジネス・アイデア・デザイン(BID)」を行う。


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